2024年は、こちらにもアップします。

2024年4月15日月曜日

読了メモ「夫婦間における愛の適温」 向坂くじら

 


読了。

30歳前後で結婚2〜3年であろう夫婦のエッセイ。

書き手は、詩人で国語教室を主宰している奥様。


なんとも微笑ましい。

日々日常の些細な所作の一つ一つに二人は解釈を加え、

その度に二人の言い分は食い違う。

二人は全くの他人だから、今後のことを予測してもしようがない。

これまでがこの先も続くほうに覚悟を決めて賭けてみるという。

こうしてお互いの信頼が築かれていく。

とても仲の良い二人であることがよくわかる。


文章の表現や言葉の選び方が背伸びをせずに等身大で

素直に口を出てきた感じがして好感が持てる。

読んでいるとなぜかTARAKOさんの声が聞こえてきそうな感じがする。


エッセイの合間には、詩も挿入されており

これらの普通な空気感もとてもいい。

身近な感覚でどことなく懐かしい感覚さえおぼえたりするところもある。



「いちばんふつうの家のカレーが好きなんだよね」


では、食事に愛を込める云々という話と

料理にいろいろ工夫をこめて最高の味になった話の

微妙な感覚のズレが面白かったし、



「熱が出ると」


という詩などは、臨場感もあって

読んでる側の手が熱くなる感じを覚えるほど。


自分が同じ年齢だった頃はどうだったかな。。。

ふと思い出そうとしちゃいました。



以下はAmazonへのリンクです。

向坂くじら
百万年書房 2023年

2024年4月8日月曜日

読了メモ「増補版 敗北を抱きしめて 第二次大戦後の日本人 上・下」 ジョン・ダワー



読了。

久しぶりに読み応えのある歴史ものだった。

敗戦後のGHQ占領下における
日本の政治・社会・文化・経済などを浮き彫りにしたノンフィクション。
サンフランシスコ講和条約で、米国の占領は一応の終わりを告げるが
本書は1989年の昭和天皇崩御まで話をひっぱる。

庶民レベルから政治家/官僚、そして天皇にいたるまで
アメリカ人が、ここまで日本人の思考・行動のありさまを
解き明かしたことにまずは驚く。
ルース・ベネディクトの「菊と刀」の読了以来の感嘆だった。
具体的な統計データ提示はもちろん、
各種資料やインタビュー、報道の内容を通して、
当時の日本人の言動や考え方を見事に抜き出している。
また、マッカーサーが天皇制を重要視し、
最終的に戦争責任を問わせなかったかがよくわかる。
アメリカはここまで日本のことを研究調査していたのかと。
一方で、東京裁判に代表される戦争犯罪の裁判では
「戦勝国の裁き」と「敗戦国の裁き」と題して
両サイドからの戦争責任の検証を行なっているのも注目される。

上巻は、敗戦直後の絶望の底から這い上がり、
食べるため生きるための死に物狂いの庶民の生活や、
パンパン/闇市/カストリと言われた集団の動きから
坂口安吾や太宰治に代表される旧式な価値観への文化的挑戦、
アメリカ文化への憧憬と軋轢などが綴られ、
下巻は、天皇制保持を貫いたGHQの真意や
武力の完全放棄を謳う日本国憲法制定への日米双方の動き、
GHQ検閲下での民主主義の醸成、
そして国民の関心が薄れてしまった東京裁判などが記されている。

おりしも、オッペンハイマー博士の映画を鑑賞し

テレビで下山事件の特集番組を観たが

本書の時代背景と共通する大きなうねりがあると感じた。

それは一体なんだろうか。。。


なお、本書の原題は下記の通りで

米国でも数々の賞を受賞したノンフィクションなのでした。


EMBRACING  DEFEAT

Japan in the Wake of World War II

by John W. Dower


以下はAmazonへのリンクです。

増補版 敗北を抱きしめて 第二次大戦後の日本人 上
ジョン・ダワー
三浦陽一/高杉忠明 訳
岩波書店 2004年

増補版 敗北を抱きしめて 第二次大戦後の日本人 下
ジョン・ダワー
三浦陽一/高杉忠明/田代泰子 訳
岩波書店 2004年

2024年3月31日日曜日

2024年3月読了本 6冊

読了本のリンクはAmazonへ    
(必ずしも同一の本とは限りません)

1)「告白」

        町田 康

        中央公論新社 2005年

        読了日:2024年3月11日

  ・河内弁のボケとツッコミは読み出したら笑いが止まらない。

   主人公の葛藤に読者の心は揺さぶられる。




2)「一駅一話! 山手線全30駅のショートミステリー」

        柊 サナカ

        宝島社 2023年

        読了日:2024年3月13日

  ・大崎駅始発のJR山手線内回りのショートショート集。

   お話と各駅との関連性はそれほど深くはないかな。




3)「銀河の片隅で科学夜話 物理学者が語る、すばらしく不思議で美しいこの世界の小さな驚異」

        全 卓樹

        朝日出版社 2021年

        読了日:2024年3月14日

  ・天空、原子、数理社会、倫理、生命をテーマにした科学コラム。

   民主主義の意思決定を世論力学で解く見方は面白い。

            多数決は必ずしも正ではない。




4)「わたくし率 イン 歯ー、または世界」

        川上未映子

        講談社 2023年

        読了日:2024年3月14日

  ・川上さんのぶっ飛び小説。歯科の診察台を舌にみたてる感性に目が点。
   関西弁が小気味良いリズム。




5)「谷崎潤一郎犯罪小説集」

        谷崎潤一郎

        集英社 2020年

        読了日:2024年3月18日

・四つの犯罪短編小説。どれも面白い!

 江戸川乱歩が影響を受けたくらいなんだから。




6)「湯川秀樹 詩と科学」

        湯川秀樹

        平凡社 2022年

        読了日:2024年3月23日

・サブタイトルが象徴的な湯川博士の執筆時年齢も併記されたエッセイ。

            文学/哲学と科学は、途中のプロセスこそ違うが

            目指すは同じという観点に感服。




2024年3月18日月曜日

読了メモ「谷崎潤一郎犯罪小説集」谷崎潤一郎

 



読了。


「柳湯の事件」

「途上」

「私」

「白昼鬼語」

の4編からなる。


いずれも短編だが存分に楽しい。

なにせ、あの江戸川乱歩が影響を受け、

アガサクリスティの数年先をゆく作風であったりもするわけで。

実際、本書を読むきっかけとなったのは

江戸川乱歩の「D坂の殺人事件」に二話目の「途上」が引用されていたから。


いずれの作品も、その世界に引き摺り込まれていくように読んでしまう。

精神が異常とも思える人物たちやその妄想、

探偵に問い詰められ切羽つまる心持ちや

独特の妖艶な佇まいを醸し出す描写にとっぷりと浸り込んでしまう。

そして、凄惨な殺人現場かと思いきや、実は、、、というのも面白い。


ミステリーは、そのトリックや謎解き推理を楽しむ向きが多いと思うが

この谷崎潤一郎の怪しい世界を覗き見するのも一興というものです。

おすすめです。是非!!



以下は、Amazonへのリンクです。

「谷崎潤一郎犯罪小説集」

谷崎潤一郎

集英社 2020年



2024年3月12日火曜日

読了メモ「告白」町田 康


読了。

約680ページの長編。準鈍器本か。

「河内十人斬り」という史実に基づいた小説で、

ガチガチなハードな内容かと思っていたら

会話は全て河内弁、地の文もそれが混じり

ツッコミとボケが展開されて笑いだしてしまうほど。


主人公の城戸熊太郎は、喧嘩上等の博奕打ちで

本当にどうしようもなく、村でも手がつけられない極道者。

ただ、その熊太郎の心の声が丁寧に語られており、

騒ぎを起こしていることとは裏腹に、

相手のことを慮りながらも、

思い通りにできない苦しさ、歯がゆさが

読者の心をゆさぶる。

自分はなぜこんなに暴れてしまうのか。

敗けて銭がなくなるのに、なぜ博奕を続けるのか。

愛するあの人は神仏なのではないか。

心と実際の言動が一致しなくてもどかしい。

そして、最後の一言でやっと熊太郎の思いと行動は一致します。


河内弁の表記が自分には読みづらくはあったものの、

熊太郎の世界に引きづり込まれるように読んでしまった。



以下は、Amazonへのリンクです。

「告白」 町田 康

中央公論新社 2005年


2024年2月29日木曜日

2024年2月読了本 7冊

 読了本のリンクはAmazonへ    
(必ずしも同一の本とは限りません)

1)「犬神家の一族」
        横溝正史
        KADOKAWA 2021年
        読了日:2024年2月1日


        前野ウルド浩太郎
        光文社 2021年
        読了日:2024年2月6日


        ウィリアム・ジェイムズ 伊藤邦武 編訳
        岩波書店 2021年
        読了日:2024年2月12日


        網谷祐一
        河出書房新社 2017年
        読了日:2024年2月15日


        ロバート・A・ハインライン 内田昌之 訳
        早川書房 2015年
        読了日:2024年2月23日


        井戸川射子
        講談社 2022年
        読了日:2024年2月27日


        手塚治虫
        大都社 1976年
        読了日:2024年2月29日



2024年2月5日月曜日

読了メモ 「犬神家の一族」 横溝正史



読了。

市川 崑監督、石坂浩二主演の1976年版は、
もう擦り切れるほど観ているけれど
実は原作をまだ読んでいなかったという事実。

今更ながら、やっぱり読んでよかった。
映画では、どこか腑に落ちなかったところも
見事にジグソーパズルのピースがパチンとはまった。
一方で、映画の脚色が大変素晴らしいことも同時に実感。

ということは、「女王蜂」「獄門島」
「悪魔の手毬唄」「病院坂の首縊りの家」
なんかも、いずれも映画しか観ていないので
原作を読むと新たな発見があるかもですね。

それにしても、那須神社の神主さんがあんなキャラクタだったとはなぁ。
大滝秀治さん演ずる神主さんとは全然違った。
猿蔵もよく喋るし。


以下は、Amazonへのリンクです。